T.M.Revolution 西川貴教さんの「アンコール問題」について。
2022/01/19
「T.M.Revolution 西川貴教」さんという方をご存知でしょうか?
「HOT LIMIT」や「WHITE BREATH」などのヒット曲を持ち、デビューから十数年経った今でも、高い歌唱力と類稀なるトーク力を武器に大活躍中の方なのですが、この西川貴教さんが以前、「アンコール」について言及したことが話題になりました。
今回は西川貴教さんのアンコールについての意見を、接客業にも置き換えたりしながら、考えていきます。
もくじ
「アンコール」は付加価値である。
ちょうど前回
マナーの悪いお客様には、それなりの対応でいいんじゃない??〜接客業におけるお客様と店員のビジネス的な関係について〜
という記事を書いたのですが、アーティストのコンサートにおける「アンコール」というのは
「見えない価値=付加価値」に該当するものだと思います。
実際に西川さんのツイートでも
常々アンコールに関してお答えしていますが、基本は本編で全て完結しており、チケット代はこの本編に対して頂戴しております。更に求められ、それに応える心と心の呼応がアンコールです。本当に求めて頂ければ、いくらでもお応えします。ですから『もっと』のアピールは、強く大きくお願い致します。
— 西川貴教 (@TMR15) 2015, 6月 28
このようなツイートがあり、これは「チケット代の対価は、あくまで本編のみである」という「ビジネス=価値と価値の交換」ということを踏まえた上での発言のように私は感じました。
この価値観については、さすが十数年も第一線で活躍されている方らしく、「価値」の物差しが非常に精巧にできているように思います。
「ビジネス」というものをしっかりと理解し、とてもシビアなところで駆け引きされている印象を受けました。
提供する側と享受する側の意識の違い
そして翌日にもこのツイートに関する補足が投稿されました。
昨日のアンコールに対する発言ですが、お客様にアンコールを強要している訳ではなく、アンコールを頂きステージに出ると、スマホを触ったり、着席して談笑されてることがあるので、アンコールは演る側も義務ではありませんし、お客様も強制ではありませんよ、というそもそものお話をさせて頂きました。
— 西川貴教 (@TMR15) 2015, 6月 30
そんな中、このツイートを見た人からは「アンコールはサービス残業なのか?」という問いや、「別のアーティストのように、アンコール分も本編に組み込んで、アンコール無しにすればよいのでは?」という意見も寄せられたようです。
西川さん自身が「チケット代の対価は本編のみである」という言葉の裏には、「アンコールを聞くにはチケット代ではない、他の対価が必要である」という意味が含まれているように思います。
そして西川さん自身は、その対価が「『もっと』」のアピールだと言っているのです。
そう踏まえた上で、「サービス残業なのか?」という質問は、この場合「提供する側が対価を得られないから、やりたくない(または嫌々やっている)のか?」という意味のように感じて少し違う気がしますし、「チケット代の対価である本編以上の価値(この場合「もっと」のアピール)を提示してくれれば、こちらは喜んでそれに応える」という意味での「心と心の呼応」と言っているのにも関わらず「それを含めて本編にするのはどうか」という意見もちょっとズレています。
アンコールとは「正しい価値同士を交換するための延長戦」である。
上記のことをまとめ、さらにビジネス的な観点から見ると、アンコールとはつまり「お互い等しい価値同士を交換するための延長戦」であると言えると思います。
提供する側があらかじめチケット代と同じぐらいの対価である公演を用意していても、その想定を超える盛り上がりをお客様が見せてくれた場合、価値の構図は「公演<お客様の盛り上がり」になります。
そこで「アンコール」を導入することによって「公演=お客様の盛り上がり」という、それぞれの価値を等しくし、まさに「ビジネス」にするための延長戦をするわけです。当然その逆の「公演>お客様の盛り上がり」であれば、アンコールをすることなく本編のみで終了する場合もあります。
今回のケースはまさしく「公演>お客様の盛り上がり」のパターンだったといえるでしょう。
それでも上記のようなリプライを見る限り、やはり提供する側とそれを受け取る側の意識の違いがあるように感じました。
「お金を払っているんだから・・・」という意識
提供する側とそれを受け取る側の意識の違いを産んだのは、やはり受け取る側には「お金を払っている」という意識があるからだと思います。
その日の公演全ての対価としてチケット代を払っているのだから、という意識のせいで、提供する側と摩擦が起きてしまったのでしょう。
もちろん、チケット代はその日全ての公演の対価としてもらっている、という認識のアーティストもいらっしゃると思いますが、「ビジネス」に関してシビアな物差しを持っている(と思われる)西川さんのライブでは違った、という話です。
西川さんは個人の事務所で自身が代表取締役を務めているわけですから、ビジネスに対してシビアになるのは当然なのかもしれません。
ただこれにより、アーティストごとに「チケット代の対価」が異なることがわかり、惰性で続いていた「アンコール」について、アーティストと観客双方の問題提起になったのではないでしょうか。
アマチュアのバンドなどでは、アンコールの要求があるとつい舞い上がってしまい、それこそ「いくらでも」提供してしまい、観客の方に「もういいかな」と思わせてしまうこともあるように思いますが、さすがはプロのアーティストだなぁと思いました。そしてそれについてとことん主張、議論する西川さんは、本当に音楽に対して真面目で、そしてちょっぴり不器用なんだなーと思い、すごく好感が持てました。
接客業の理想形とその難しさ
「アーティスト」と「観客」という関係は、本当にお互いがお互いを支え合って成り立っています。
観客は人生を救われた経験があったり、とにかく楽しい時間を過ごせたりしたからこそ、CDを買ったり、ファンクラブに入ったり、ライブに行ったりするわけです。
そしてアーティストはそれに対しての感謝やさらなるエンターテイメントの提供をするために、お客様から得たお金で時間を買い、その時間を全てお客様のため(自分のためでもある)に費やすわけです。
この循環は、まさに接客業においても理想形と言えるでしょう。
しかしこれはアーティスト自身が、一種の「神」のような存在であり、ファンというのはそれを崇拝しているような状況であるから成り立っているとも言えます。
それであってもこうして価値観の違いについてファンの方と衝突することもあるわけですから、「自分が神様である」と勘違いしているお客様もいるような世界の店員が、対等に「価値と価値の交換」ができるとは到底思えません笑
店員がお客様と対等に「価値と価値の交換」をするには、少なくともアーティストとファンの関係ぐらいにはならないということですね・・・。
接客業の未来は前途多難ですな・・・。
ビジネス的には正解だと思いますが・・・。
ビジネス的に見れば、西川さんの対応は正しいと思います。
しかし、やり方やアピールの仕方には「もっといいやり方があったのでは?」と思わなくもありません。
というのも、今回のツイートのリプライの中に、ファンの方から「気合が足りずすみませんでした」といった内容のリプライがありました。
これは今後ファンの中に「気合を入れて求めているアピールをしなければ、アンコールがないかもしれない」という強迫観念にかられてしまう恐れが出てしまい、それは結果的にファンに「もっと」のアピールを強要してしまうようにも思えます。
また、「たまたま友人に連れられてきた」というお客様に対して上記のようなアピールを求めることも酷ですし、そういったお客様がアンコールを求めなかったとするならば、それはアーティスト側に原因があるということも否めません。
やはり一人一人に対して個別にリアクションをとれるわけではない「コンサート」というサービスの内容上、アンコールはお互いに義務でも強制でもないですが、「求めてくれる人が一人でもいるなら、アンコールに応じる」というスタンスでいて欲しかったと思うファンの方も少なくはないのでしょうか。
実際に現存するたくさんのアーティストがこのアンコールの件について言及しなかった理由として、上記のようなことも挙げられるのではないかと思います。
不器用だけど熱い、西川貴教さん
ビジネスに対する正しい価値観が裏目に出てしまったように思う今回の西川貴教さんの「アンコール事件」ですが、何度もいうように曖昧で惰性になっていた「アンコール」について、アーティスト側だけでなく、観客側にとってもいい問題提起になったように思います。またこうして炎上しながらも真っ向から自分の主張をする西川さんが不器用だけど熱く、音楽に対しても真面目に取り組んでいるんだなぁという印象を受け、非常に好感が持てました。
おそらくアマチュアのバンドマンが同じことをツイートしたとしても、炎上して叩かれて活動に影響が出てしまうだけで終わったと思うのですが、こうして実力のある方が意見することで、提供する側とそれを受け取る側両方がそのことに対して意識できる規模の話題になったと思います。
やはりアーティストといえど一人の人間です。
嫌なことをされれば機嫌を損ねるのは当然ですし、自分が好きなアーティストであれば、アンコールを他人に任せるのではなく、「自分でアンコールを勝ち取るんだ」という意識をもって、積極的に求めるアピールをして欲しいと思います。
とはいえやはりこの関係は、接客業において非常に理想的です。憧れます。
お互いが気持ち良くいられるように、互いに敬意を払える関係が、どの場面でも当たり前であるような社会になればいいと思います。
そのために僕も色々と発信していくつもりではありますが、やはり影響力というか、知名度の差は大きいように思いました笑
僕は僕なりの規模とペースで、これからも取り組んでいきます。
それでは、長くなりましたが、これにて失礼します。